委員によっては、法令の正しい解釈を理由として山下議員の法解釈が間違いであると主張していますが、ここではそれらの意見の中で法解釈に関連する部分を検証します。

久保田議員(自民沼津)はまず、「学校教育法、教育基本法や地方自治法は、憲法を頂点として存在する一般法です」と説明していますが[1]、一般法と特別法の区別は2つの法律の相対的関係の中で言われるものであり(ネットで簡単に調べられます)、ある法律を単独で考えて一般法であるとか特別法であるとかいう表現は間違いです[2]。ここで挙げられた法律で言えば、教育基本法と学校教育法を対比させた場合に、教育基本法は一般法になり学校教育法は特別法なるということになります。また、憲法はすべての法律に優先されるため、一般法と特別法での優先度の論点で持ち出すのは間違っています。

さらに、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)の第21条に、「教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止は教育委員会の権限とすると明記されている」としていますが[3]、検証2-2bで確認しているように、この第21条は教育委員会の職務権限である教育に関する事務の中の一つとして、学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止に関することがあると規定しているのであり、学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止は教育委員会の権限であると言っているわけではありません。

もし学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止は教育委員会の権限であるとすると、検証2-2aで確認している、山下議員の質問(検証2-2aの[2])に対する奥村教育長の最初の答弁(検証2-2aの[3])と同じになります。奥村教育長はその後にこの答弁を訂正して言い直していますから(検証2-2aの[5])、久保田議員のこの主張は奥村教育長が言い直した答弁を否定することにもなります。 つまり、地教行法の第21条は、学校教育法や地方自治法で規定する学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止に関することと同じことを規定しているのではなく、それらの法律とは異なる事柄を規定していると解釈でき、特別法だから優先するという論法は誤りです。従って、山下議員の法解釈が誤っているという主張の根拠にはなり得ません。

引用 [1] ~ [3] (久保田委員)

○久保田委員

今回の山下議員の懲罰に関しまして私の意見を述べさせていただきます。まず2点に分けて述べさせていただきます。

まず1点目についてですが、山下議員の発言の基になっている法令解釈の誤りについてです。山下議員は質問の中で、学校教育法第2条そして地方自治法第149条第7項や第244条の2の引用において、公の施設とあるのをイコール学校と無理やり混同して解釈しており、それらを根拠として学校の配置・統合・廃止についての権限を市長として主張しております。言うまでもなく、学校教育法、教育基本法や地方自治法は、憲法を頂点として存在する一般法です。一般法はあくまで広い意味で適用されるものであって、特定の事項について特別法が制定されていれば、特別法が優先されるのが法律の立てつけです。[1] 地方自治法では、第180条の5、それに第180条の8におきまして、教育委員会を執行機関として別の法律で定めると規定しています。いわゆる委任規定ですよね。地方教育行政の組織及び運営に関する法律、略して地教行法ですが、この法律は特別法の一つであって[2]その中の第21条は、教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の設置、管理及び廃止は教育委員会の権限とすると明記されておりまして[3]、その意味は、それ以上でもなくそれ以下でもありません。山下議員の先ほどの解釈は、その点非常に乱暴な解釈で、そのような法解釈がまかり通ったら、極端な話、あらゆる行政行為の最終的な責任が法律上総理大臣にあると解釈するのと変わらなくなるんじゃないでしょうか。そういう意味で、山下議員の法解釈には明らかな誤りがあることを申し上げておきます。ただ、法の解釈に間違いがあることをもって懲罰云々ということは私は考えておりません。間違いや勘違いは誰にもあることですので訂正すればいいことです。
[後略]

(令和3年12月13日懲罰特別委員会会議録)

平野議員(虹の会)は、「教育の独立性を担保するために、市長と教育委員会の権限は明確に分けられていると判断します」[4]と述べていますが、検証2-2bで確認しているように、市長と教育委員会にはそれぞれ独立した権限もありますが、学校設置までのプロセスにおいては市長と教育委員会の職務権限は完全に独立しているわけではありません。また、「学校の統廃合に関しての権限はあくまで教育委員会です」[4]と断言していますが、これも上記の久保田議員の発言についての検証で議論したように、学校を統廃合する権限が教育委員会にあるわけではなく、奥村教育長の答弁とも矛盾することになります。さらに、「設置者は教育委員会であると答えていたとすれば、それは間違いですよと指摘をするべきだと思います」[6]とも述べていますが、これは平野議員が設置者は教育委員会ではないと捉えていると考えられます。設置者が教育委員会ではないとするならば、学校の統廃合に関しての権限もないことになり、先の発言内容と矛盾します。 また、「それを受けて学校設置条例の提出をするだとか予算を執行する、そこは市長、首長の権限になっています」[5]とも述べていますが、これも検証2-2bで見たように、市長は教育委員会の決定を単に受け入れるのではなく、総合教育会議での協議・調整を経て結論が出されるのですから、教育委員会の決定がそのまま市長が提出する議案になるわけではありません。

引用 [4] ~ [6] (平野委員)

○平野委員

[中略]
教育委員会と市長、首長との関係、あるいは独立性といったものは、一般的に言うと、沼津市内の学校は誰が設置するのか。多くの人が市長だと、沼津市の責任者は市長だという認識が、一般的にはあることは否定をいたしません。ただ一方で、教育の独立性、先ほど植松議員が文科省での話で紹介しましたけれども、教育の独立性を担保するために、市長と教育委員会の権限は明確に分けられていると判断します。その中で、学校の統廃合に関しての権限はあくまで教育委員会です。[4] そして、それを受けて学校設置条例の提出をするだとか予算を執行する、そこは市長、首長の権限になっています。[5]
[中略]
先ほど、問題になっている、教育長それは間違いですよと言った部分が、教育長が答えたのは、執行権限は教育委員会であると答えているんですね。設置者は教育委員会であると答えているわけではないんです。設置者は教育委員会であると答えていたとすれば、それは間違いですよと指摘をするべきだと思います。[6]
[後略]

(令和3年12月13日懲罰特別委員会会議録)

川口議員(日本共産党沼津市議団)の発言の下記引用のうち[7]の部分は、山下議員の発言を曲解しています。山下議員の発言には表現を簡略化したやや乱暴な言い回しも見られますが、「学校は市長権限でできる」とは言ってはいません。発言全体をみて解釈すれば、山下議員の主張は「市長には学校の設置者としての責任がある」ということだと解釈でき、検証2-2および検証2-3で確認しているように、この解釈は妥当だと考えられます。

また、「教育に関することについては、主に市長とは独立した教育委員会が責任を負っています」[8]と述べていますが、検証2-2bで確認しているように、教育委員会が独立した権限で執行するのは教科書選定や教職員人事、その他総合教育会議で協議しない細かな施策であり、総合教育会議で市長と協議するものについては教育委員会の権限で執行できるわけではありません。

さらに、教育委員会が市長とは独立しているとする理由として、「合議制の機関を通じて、公正・中立な意思決定や住民意思の反映を図ることが適当だと考えているから」[9]とも述べています。ここの合議制の機関は総合教育会議を指している思われますが、この会議での市長と教育委員会は対等の立場であり、「住民意思の反映を図る」[9]のは市長の責任です。このことは教育委員会の考えだけでこの会議での結論が出されるわけではないことを示しており、前の文とは矛盾しています。

加えて、「市長は予算案の調製に当たって教育委員会の意見を聞くこととされている」[10]という表現や「学校統廃合の執行に至る方向を出すのは教育委員会であり、その責任を負うのは教育長です」[11]の部分は、これも検証2-2bで確認しているように明らかに誤りです。総合教育会議では市長は単に教育委員会の意見を聞くのではなく、教育委員会とは協議・調整を行うことが求められています。学校統廃合の方針が最初に教育委員会で決定されたとしても、その後に総合教育会議での市長との協議・調整を経ることが必要であり、最終的な方針を決定するのは教育委員会ではなく総合教育会議、つまり市長と教育委員会ということになります。 川口議員はその後も教育委員会の独立性を主張していますが、地教行法では教育委員会の独立性だけでなく長との協力も求められていることを忘れるべきではありません。

引用 [7] ~ [11] (川口委員)

○川口委員

[中略]
今回の一般質問において指摘すべき点として、地方公共団体における首長、いわゆる市長と教育委員会、教育長の権限範囲についてであります。山下議員は、質問において、地方自治法244条の2において公の施設の管理及び廃止する権限は、市長が議会の議決によって行使できる。また、学校教育法第2条、学校は、地方公共団体が設置するとあるので、地方公共団体の長である市長権限でできるとしていますが、[7] この解釈は一面的であります。地方公共団体における行政責任は、その多くは市長が負っていますが、教育に関することについては、主に市長とは独立した教育委員会が責任を負っています。[8] このような仕組みとされている理由は、教育について政治的中立性や継続性、安定性の確保が強く求められ、合議制の機関を通じて、公正・中立な意思決定や住民意思の反映を図ることが適当だと考えているからであります。[9] 教育関係の予算の編成・執行については市長の権限であり、市長は予算案の調製に当たって教育委員会の意見を聞くこととされていることは言うまでもありません[10]。この上で、予算が伴う案件については、教育委員会との合議を踏まえての地方自治体としての行政執行は、市長が議案として整え、議会の議決を得て執行することになります。市長の下で予算執行をするから、学校の統廃合の執行権者は地方公共団体の長である市長権限だと断定する山下議員の指摘は当たりません。学校統廃合の執行に至る方向を出すのは教育委員会であり、その責任を負うのは教育長です。[11]
[後略]

(令和3年12月13日懲罰特別委員会会議録)

霞議員(市民クラブ)は発言の中で、「文科省がお墨つきを与えている山下議員の主張を認めないとする教育長に対して、『それは大きな間違いですよ』」[12]といったことを問題にしていますが、検証2-2aで確認しているように、教育長は山下議員の主張を認めなかったわけではなく、山下議員の質問に正面からは答えずに「執行機関は教育委員会である」とはぐらかした答弁をしています。そして、これに対する山下議員の「それは大きな間違いですよ」という発言を、執行機関は教育委員会であることを否定したものと捉えています。このことに関しては「教育長と市長に対する無礼な言葉とされる問題」(検証1)のところで詳しく検証していますが、他の懲罰賛成派の議員も同様の捉え方をしています。しかし検証2-2aで確認しているように、山下議員の一連の発言の主意は、学校の統廃合についての最終責任は市長にあるのではないかということであり、川口議員の主張同様に、「学校の設置者たる地方公共団体を拡大解釈し、市長がその権限を議会の議決によって執行できると発言した」[13]と問題にするのは、山下議員の発言の一部を取り出して非難しているものです。

引用 [12] ~ [13] (霞委員)

○霞委員

[中略]
そして、文科省がお墨つきを与えている山下議員の主張を認めないとする教育長に対して、「それは大きな間違いですよ」、[12] 同様に、山下議員の主張を認めない市長に対して、地方自治法第244条の2に規定する公の施設の設置、管理及び廃止により、学校の設置者たる地方公共団体を拡大解釈し、市長がその権限を議会の議決によって執行できると発言し、[13] 「これ、文科省にも確認したんですね。残念です」との発言をされています。山下議員が自身の法の解釈によって不正確な発言をしたことだけを指して、今回の動議が行われたわけではありません。
[後略]

(令和3年12月13日懲罰特別委員会会議録)

他の議員(長田、加藤、尾藤の各議員)については、詳しい根拠を説明することなく山下議員の法解釈が間違いであると決めつけています。