沼津市は不当利得返還請求として山下議員を提訴する手続きを進め、2023年10月16日に沼津市議会において提訴が可決されました。一方山下議員は、土地の所有権は自身にあることを訴える市民・メディア向けの説明会を数回開催し、また沼津市に対し協議による解決を何度も求めていますが、沼津市は協議を拒否しています。

また、山下議員の正当性を認めて支援する市民グループ(「地方自治に民主主義を求める会」など)も結成され、提訴の不当性を訴える住民監査請求などの活動も行われ、山下議員支援の動きが広まっています。

この問題に関わる市民活動の最新で詳細な内容は、地方自治に民主主義を求める会のウェブサイトに掲載されています。

以下では、市による提訴前後の経緯やもともとの土地収用の経緯からこの問題を検証します。
※ ここに掲載している資料は、山下議員から提供していただいたものです。

不当利得返還請求問題の経緯
2022年
12月15日
山下議員に対し、市が駐車場料金10年分のおよそ200万円の不当利得返還請求。
2023年
6月30日
山下議員に対し、市がおよそ200万円の支払い請求(納付書添付)、また期限までに支払われない場合は法的手続きに移行することを通知。
7月27日弁護士を通じ、山下議員が請求には応じられないことを市に通知。
9月5日山下宅において、関連の土地売買契約書等一式が見つかる。
9月15日弁護士を通じ、山下議員が市長あてに協議の申し入れ。同日、市は協議の申し入れを拒否。
9月8日山下議員が土地売買・物件移転補償契約書等および関連稟議書等一式の開示請求。
9月19日およそ200ページに及ぶ資料が市から開示される。
9月25日市民から沼津市監査委員に対し、山下議員に対する提訴議案の取り下げおよび話し合いでの解決等を求める請求が提出される。
10月16日沼津市議会本会議で山下議員に対する提訴議案が可決される。
10月17日市民489人の連名で、山下議員に対する提訴の取り下げと協議による問題解決を求める住民監査請求が提出される。
11月13日監査委員会によって上記の住民監査請求が却下されるも、異例の意見を付加し両者の協議による解決を求める
11月20日監査委員の意見を受け、地方自治に民主主義を求める会が話し合いの場を設けることを市長に申し入れる
11月24日20日の申し入れに対し、市が拒否回答する。
11月27日地方自治に民主主義を求める会が、市長と市議会議長に対し、今回の問題や別の市議会議員による官地占有に関して、市民との面談を求める申し入れを行う
11月28日沼津市が山下議員を提訴
11月29日市による提訴を受け、山下議員を支援する市民グループや多くの市民傍聴者の参加のもと、山下議員と代理人弁護士による緊急記者会見が開催され、市の提訴に対する弁護士からの反論が行なわれる。この時の弁護士の見解は、こちらを参照。

この問題のそもそもの発端は、沼津市による黒瀬橋の拡幅工事に伴い、山下議員の父親の植松氏が市の要請に応じて土地の一部を提供したことです。それに関わる一連の土地取引の中で、市が植松氏から収用する土地の収用対償土地(代替地)として問題の土地も用意されていたことが推測できます。

土地収用の経緯
1991 (H3)年12月24日A氏が植松氏から取得していた問題の土地を含む土地(1556-4、1556-7)を市に売却。
1993 (H5)年2月5日市の道路建設課が問題の土地を払い下げる確約書を植松氏に渡す。
2月8日市と植松氏との間で、収用する土地(問題の土地以外)の売買契約書および物件移転補償契約書が交わされる。
3月22日市が、A氏から取得していた土地2筆から問題の土地(1556-19、1556-20)をそれぞれ分筆。
1994 (H6)月5月30日確約書に押されている道路課の受付印の日付。
物件移転補償契約書の1つに関する回議書(稟議書)には、この日付で会計課の印が残金の所に押されている。

問題の土地

双方の主張と根拠

山下議員の主張と根拠

  1. 問題の土地は、市が植松氏から収用した土地の対償地(代替地)として払下げを受けたものである。
根拠

市は問題の土地を植松氏からの土地収用の一環として準備・手続きを進め、伴う工事を実施していること。

  1. 収用地の売買契約の1年以上前に、A氏から問題の土地(1556-19、1556-20)を含む土地を買い上げている。
  2. 収用地の売買契約の1か月半後に、問題の土地を分筆している。
  3. 確約書により植松氏への問題の土地の払下げを確約している。
  4. 精算内訳メモ(計算書)では、収用する土地の代金と問題の土地の払下げ価格を合算している。
  5. 市は、確約書に記載されている確約事項(アスファルトの簡易舗装など)の工事を実施している。
  6. 問題の土地と売買契約書に記載されている収用対償地の合計面積が、収用地の面積とほぼ等しい。(問題の土地は収用対償地の一部であると考えられる)
  7. 市も問題の土地が山下議員の所有であると認識していた文書が存在する。
  8. 物件移転補償契約についての市の回議書(稟議書)では、確約書にある受付印と同日の日付(H6.5.30)で、補償費の残金(問題の土地の払下げ価格とほぼ等しい金額)の所に会計課の印が押されている。
  1. 問題の土地が登記簿で市の名義になっているのは、払下げ実行後に市が移転登記を怠ったためである。
根拠

1の根拠により問題の土地の払下げは実行されたと考えられるため、登記簿で市の名義になっているのは、所有権の移転登記がなされなかったためと考えるべきである。また、相続などで所有権が移った後でも登記簿が変更されていない例は数多く存在する。

市の主張と根拠

  1. 植松氏から払下げ申請書が提出されなかったために払下げは実行されなかった。
根拠

根拠はない。

  1. 登記簿では市の所有地となっている。
根拠

登記簿上の記録

市の主張に対する疑問と議論

払下げ申請書の有無について

市は主張の1で払下げ申請書が植松氏から提出されなかったとしていますが、市はそれを裏付ける証拠を出していません。むしろ、山下議員の主張1の根拠を検討すると、市は問題の土地を払い下げるために多くの手続き・処理を行っており、払下げが実行されなかったと考える方が困難です。市が確約書を作成した後に問題の土地を分筆し、確約事項の工事を実施していることから、この作業の開始時点では双方の合意ができていたはずです。払下げを受けたいという植松氏の意向を確認しないままに市がこれらの手続きや工事を実施するとは考えられません。

つまり、これ以前に植松氏から払下げ申請書が既に市に出されていたものの、問題の発覚時点では文書の保存期限を過ぎていたために廃棄されてしまっていたか(存在するにも関わらず市が開示していない可能性もあります)、収用地と一体で手続きが進められていたことを考えると、市は植松氏からの申請書を必要とはせずに双方の合意がなされていたと考えるべきです。

登記簿を根拠として所有権を主張していること

山下議員の主張2の根拠にあるように、土地の登記簿の記録は必ずしもその時点での所有者を証明するわけではなく、実際の所有者は変更されている可能性もあります。その可能性がある以上、さらに払下げが実行されたことを強く窺わせる文書が存在する以上、登記簿上の記録だけでは沼津市の所有権を裏付ける根拠にはなり得ません。

不誠実で公正さを欠く沼津市の対応

問題の土地の名義が沼津市になっていることが判明して間もなくの2022年10月31日に、山下議員の情報開示請求に応じて、道路建築課が作成した問題の土地に関する払下げ確約書等(関連文書の一部のみ)が開示されています。この確約書は払下げの実行を窺わせる文書であり、この時点で、払下げは実行されたかもしれないと考えるのが常識的な反応です。それにも拘らず、市は関連文書をさらに調査することもなく、また山下議員と協議することもなく、12月14日付けの文書で駐車場からの利益の返還を山下議員に一方的に請求しています。これは、市民に対する非常に高圧的・一方的な対応であるとしか考えられません。

さらに、2023年9月に山下議員の自宅から複数の土地売買契約書や関連文書が見つかった後でも、市は山下議員と協議してそれらの文書を精査しようとはせずに提訴の手続きを進めています。鉄道高架化事業に見られるように、一度決めた方針は状況が変化しても変えようとはしない硬直化した沼津市行政を反映しています。

情報開示に関する疑問

2022年10月に山下議員は沼津市に対して、植松氏との間での土地売買契約書などの関連文書一式の開示を請求しています。しかし実際に開示されたのは、複数あるはずの土地売買契約書の内の1通と払下げ確約書1通のみです。植松氏と沼津市との間で土地売買契約が交わされたのは1993年(平成5年) 2月であり、この時点では、沼津市の文書管理規定に定められているこの種類の文書保存期限の30年を経過していません。それにも拘らず一部の文書しか開示されなかったということは、公文書保存規定に違反して文書を廃棄してしまっていたか、行政任務を誠実に遂行しようとはしなかったために開示されなかったと考えられます(意図的に開示しなかった可能性も)。

市の文書保存に関する疑問

山下議員の度重なる文書開示請求にも関わらず、植松氏との間での土地売買に関するすべての文書は開示されておらず、市では、一部の文書は保存期間を経過したために廃棄されたと説明しています。しかし、一部の文書をその文書の単独の保存期間だけを考えて廃棄してしまったら、後からその売買の全体像を把握して、確認・検証することが困難になってしまいます。

国の公文書管理法では、公文書の管理は「行政のための文書管理」を目的とするだけではなく、「行政活動の国民に対する説明責任」を果たすためのもの、さらには公文書は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るもの」として謳われています。また行政文書の整理について、「能率的な事務又は事業の処理及び行政文書の適切な保存に資するよう、単独で管理することが適当であると認める行政文書を除き、適時に、相互に密接な関連を有する行政文書 (保存期間を同じくすることが適当であるものに限る。)を一の集合物(以下「行政文書ファイル」という。)にまとめなければならない」(赤字部分は当サイトによる)ことも規定されています。

地方自治体の文書管理もこれに準ずるべきものであるはずですが、沼津市の文書管理にはこのような視点が抜けているように思えます。市の文書管理規定の中の文書整理についての第53条の2項には、「前項本文の場合、当該完結文書が2以上の事務に関連するものであるときは、最も関係の深い事務に従うものとし、他の関係事務については、相互参照票を用いて整理するものとする」(赤字部分は当サイトによる)と規定されていますが、国の公文書管理法と比較すると極めて不十分です。ただし、市の管理規定によっても相互参照票は作成されなければならないので、これを見ればどのような文書が作成されていたかは分かるはずです。

協議を求めてきたという市の主張はごまかしに過ぎない

11月20日の地方自治に民主主義を求める会の申し入れに対する市の回答や、11月28日の提訴についての市長会見における、「市は山下議員に対し協議を求めてきた」という主張はごまかしに過ぎません。

市が求めてきたとしている協議とは
・問題の土地は市有地なので、駐車場として貸し出して得た利益を市に返還するのは当然のこと。ただし、その金額については相談に応じるので話し合いをしたい。

山下議員が求めている協議とは
・問題の土地は自分の所有地なので、市からの不当利益返還請求には応じられない。所有者を確認するための協議を希望する。

つまり、市が求めていた協議は、問題の土地の所有者が市であることを大前提としており、山下議員に対してそれを認めるよう一方的に迫るものです。一方、山下議員が求めている協議は、問題の土地の所有者が誰であるのかを確認するための話し合いであり、山下議員が市の求めに応じられないのは当然のことです。

両者の主張の根本の違いは問題の土地の所有権が誰にあるのかということなので、協議をするのであれば、その点についての協議でなければ意味がありません。

問題の土地の払下げが実行されていた可能性が高いことを示す文書・資料がいくつも出てきたにもかかわらず、それらの文書等を精査しようともせずに、問題の土地が市の所有であるという主張を頑なに維持して、山下議員が求める協議に応じることなく提訴に突き進んだ市の姿勢は強く責められるべきです。

議会の責務を忘れ、民主主義を疎かにしている沼津市議会

2023年10月の市議会では、市より提出された山下議員に対する不当利得返還請求の提訴議案を、市の提案理由の根拠を精査することなく可決してしまっています。それまで山下議員は自身の主張の正当性(つまり問題の土地の所有権があること)を、自身のブログや市民・メディアに対する説明会などで繰り返し訴え、また新聞でもその内容が報道されてきています。そのような状況は他の市議会議員も当然認識していたはずで、本来であれば、市の提訴議案を精査すると共に、山下議員の主張に耳を傾け、十分に議案を審議しなければいけないはずです。しかし、そのような審議が行われた形跡はなく、市の主張をそのまま受け入れて可決してしまっています。それどころか、提訴に対する反対意見を述べた江本議員に対して、議会の品性という曖昧かつこじつけとしか言えない理由で懲罰動議を提出し、懲罰を決定してしまっています。

地方自治において民主主義を機能させるための仕組みとして二元代表制がありますが、この制度の下では、議会は市長・行政を常に監視して行政が正当・公正に行われているかどうかをチェックする責務があります。しかし、現在の沼津市議会は自身の果たすべき責務を忘れ、市長・行政を追認するだけの機関になってしまっているとしか思えません。

山下議員の所有が認められる可能性  詳細説明

民法には取得時効という規定があり、たとえ裁判で山下議員の所有権が認められなかったとしても、この詳細説明ページで説明するように山下議員の所有が認められる可能性があります。